チベットで見たもの(QG通信2019年春号vol.07掲載)

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さて、今回は6年前に行ったチベットの話を書こうと思います。現地にツテのある方と一緒に行きました。青蔵鉄道(せいぞうてつどう)に40時間乗って、海抜5000メートルの山脈を超えて、チベットの中心都市ラサにたどり着きました。

とくにチベットに興味があるとか、信心深いとかではなく、行ったことのない国だからという単純な動機でした。しかし、いざ行って見ると、忘れられない光景がいくつもありました。

ダライ・ラマが住んでいた「ポタラ宮」という宮殿に行ったときの話です。周囲のあちらこちらで宮殿に向かって五体投地(ごたいとうち)でお祈りをしています。宮殿の周囲は祈りの道になっていて、「マニ車」という仏具を回せば、お経を読んだのと同じ功徳を得るという道が続いています。

ポタラ宮

ポタラ宮

ポタラ宮の中には数々の仏像があります。皆がお賽銭を置いているところがありましたので、私たちもお賽銭を納めようとしました。しかし、財布の中に100元札(当時、日本円で1,700円くらい)しかない人が何人かいて、参加者同士で両替がはじまりました。すると、チベット人とおぼしき人が隣に来て、財布ごとお賽銭箱に入れて、五体投地をはじめたのです。私はなんか気恥ずかしくなり、そそくさとその場を立ち去りました。

五体投地は、五体(両手・両膝・額)を地面に投げ伏す、仏教において最も丁寧な礼拝方法の一つ

五体投地は、五体(両手・両膝・額)を地面に投げ伏す、仏教において最も丁寧な礼拝方法の一つ

あとで聞いたら、チベット仏教というのは来世利益の仏教で、この世の利益ではなく、生まれ変わる来世の利益を願うのだそうです。それから行くお寺、お寺で五体投地を10万回やっているなんて人びとを目のあたりにして、これといって信仰を持たない自分は衝撃を受けたのでした。

マニ車の側面にはマントラが刻まれ、内部には経文が納められている

マニ車の側面にはマントラが刻まれ、内部には経文が納められている

『死んだら終わり』、当たり前のようにそう思っていた自分は、日本に帰国してから『本当にそうなのかな』と考えるようになりました。「この世で何か人様のためになることをすれば、また人間に生まれ変われるかもしれない」、なんて考えたら、死の恐怖が薄らいでいきました。宗教に対する偏見はすっかり消えて、信じるものを持っているってことは、素晴らしいことなんだと思えるようになりました。

金色に輝く仏像(ポタラ宮殿内は撮影禁止のため、写真は他の寺院のもの)

金色に輝く仏像(ポタラ宮殿内は撮影禁止のため、写真は他の寺院のもの)

未だに信仰はありませんが、お墓まいりや、会社の年度はじめに全国の植木カットデザイナーと本部スタッフ全員で安全祈願をすること、会社に神棚を置いて日々作業の安全を祈るようになったのが、チベットに行って変わったことでした。

引用元:お客様と「植木屋革命」クイック・ガーデニングをつなぐコミュニケーション誌 クイック・ガーデニング通信 2019年春号vol.07 ,株式会社クイック・ガーデニング,2019年2月28日発行,4ページ